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札幌高等裁判所 昭和56年(行コ)5号 判決

控訴人(被告) 大江政雄

被控訴人(原告) 森山貞雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張と証拠の関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一(但し、原判決二枚目表末尾より一、二行目の「控訴をし」を「控訴したが」と、その裏三行目の「右事件は、」からその四行目の「係属中である。」まで(同上、一四五八頁末行)を「昭和五五年八月二五日訴の全部を取下げた。」とそれぞれ改める。)であるのでこれを引用する。

(控訴人の主張)

1  控訴人は、被控訴人が代表取締役となっている浜益自動車運送株式会社(以下「訴外会社」という。)の控訴人に対する損害賠償請求の訴訟(第一審は、札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第一四三九号、控訴審は、札幌高等裁判所昭和五四年(ネ)第一五〇号。以下「第一別訴事件」という。)につき、訴訟委任した坂下誠弁護士に対して弁護士費用を支払っていないが、これは控訴人が、昭和五四年五月初めころ同弁護士との間で、同弁護士に解決を託した第一別訴事件に関連する紛争(控訴人が村長として行った浜益村の昭和五一年度以後における廃棄物収集運搬業務委託契約締結に関する入札行政の適否をめぐる紛争。)がすべて終了した段階で、その費用、報酬と合わせて一括して支払う旨合意したことによるものである。

2  仮に浜益村が坂下誠弁護士に支払った金七〇万円の一部が第一別訴事件の弁護士費用に充てられたとしても、第一別訴事件は、これと併合審理された訴外会社の浜益村に対する請負代金等請求の訴訟(第一審は、札幌地方裁判所昭和五二年(ワ)第二八号、控訴審は、第一別訴事件と同じ。以下「第二別訴事件」という。)とその争点や証拠が共通して密接な関連を有するから、このような場合に浜益村が第一別訴事件の弁護士費用を支払っても違法とはいえない。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張はすべて争う。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断する。その理由は、左記のほか、原判決理由説示と同一(但し、原判決六枚目表末尾から三行目の「成立に争いのない甲第三号証、」を、またその七枚目裏七行目の「(なお、」からその末尾より四行目の「証拠はない。)。」まで(同上、一四六二頁一五行目から一七行目まで)をそれぞれ削除する。)であるからこれを引用する。

1  先ず控訴人の当審における主張1について考えるに、右に引用した原判決理由第二項(二)、(三)に認定された事実とその認定に供された各証拠とを総合すれば、坂下誠弁護士から浜益村に対し、昭和五四年五月二五日第一、第二別訴事件の第一審の謝金と控訴審の着手金として金七〇万円の請求がなされ、これに応じて同村が、同年六月二五日から二七日ころにかけて開催された村議会で、右弁護士費用の支出を計上した一般会計補正予算を議決のうえ、同月二八日ころ同弁護士に対し、右内容の弁護士費用として金七〇万円を支払ったこと、また控訴人が、同村の村長として、右村議会に出席し、議事に先立って第一、第二別訴事件の審理経過等につき行政報告したが、その際審議予定の補正予算案に計上されていた弁護士費用が右内容のものであるという趣旨の説明をなし、その支払に際しても、右内容の弁護士費用である旨が記載された支出伝票の決済をなしたことがそれぞれ認められ、原審証人村田健の証言により成立の真正を認める乙第五、六号証、原審証人坂下誠の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果のうち、控訴人と坂下誠弁護士の間で、第一別訴事件の前記謝金や着手金を含む弁護士費用の支払につき、控訴人主張のような合意がなされたとの記載部分や供述部分は、いずれも前記各証拠に照らして措信し難く、ほかにも右認定を左右する証拠はない。

2  次いで控訴人の当審における主張2について判断するに、成立に争いのない乙第七号証及び原審証人坂下誠の証言によれば、第一別訴事件の請求は、訴外会社が控訴人個人に対し、控訴人が浜益村村長として、その昭和五二年度における廃棄物収集運搬業務委託契約締結のための入札につき、訴外会社を入札参加業者に指定しなかったことを理由に、その措置が違法であるとして損害金の支払を求めるものであり、第二別訴事件の請求は、訴外会社が浜益村に対し、同村との間で従前結ばれていた廃棄物収集運搬業務委託契約が昭和五一年度にも存続し、または存続すべきであったことを前提として、主位的にはその契約にもとずく委託料の支払を、予備的にはその契約を同村が一方的に終了させたことによる損害金の支払をそれぞれ求めるものであったこと、そして第一、第二別訴事件は、第一審の段階で併合され、共同訴訟として審理されたが、その第一審判決では、第一別訴事件の請求につき、控訴人による右入札参加業者に指定しなかった措置は、浜益村の村長たる地位にもとづいてなされたものであるから、その措置が違法であっても控訴人個人に損害賠償責任を負わせることはできないとの理由により、また第二別訴事件の請求につき、右委託契約は各年度限りのもので、その最終の委託契約も、昭和五〇年度限りで期間満了により当然に終了したとの理由により、いずれもこれを棄却したこと(なお、第一、第二別訴事件の訴訟が、その後控訴審において訴の取下により終了したことは当事者間に争いがない。)がそれぞれ認められ、右によれば、第一、第二別訴事件は、浜益村の廃棄物収集運搬業務委託契約ないしはその契約締結のための入札行政をめぐる紛争であるという点において関連性はあるにしても、その争点や証拠がすべて共通であるとはいい難く、またたとえ右のような紛争の関連性や一部に争点、証拠の共通性があるとしても、それだけでは、村がその村長個人に対する訴訟についてまで、応訴のための弁護士費用を負担、支出することを正当化する理由にはならないと解されるし、ほかに本件において、これを正当化する特段の事情を認めるに足る証拠もないから、浜益村が支払った前記弁護士費用のうち、第一別訴事件に関する分は、控訴人個人に対する違法な公金の支出というべきである。

二  よつて原判決は相当であるから、民事訴訟法三八四条に従い、本件控訴を失当として棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安達昌彦 藤井一男 喜如嘉貢)

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